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音処探訪

00/04/11「サテン・ドール」

 出張の度に足を運ぶようになって4年、「サテン・ドール」は広島市の繁華街にあります。
 東京在住の私がなぜ、広島市のジャズ喫茶を紹介するのか。それはここが非常に居心地のよい喫茶店だからです。都内に限らず、著名なジャズ喫茶には足を運ぶよう努めていますが、この店は、オーディオ、選曲、音量、価格、店構え、そして漂う雰囲気のバランスが極めてよいのです。今回は少々間が空き、約半年振りの来店となりました。

恋とは何でしょう 一番スピーカー寄りの席に腰掛けます。カウンター越しには一面のレコード、そしてレジ向こうの壁にはリッチー・バイラーク・トリオのビーナス盤「恋とは何でしょう」やライアン・カイザーの「カイザー」カイザーのCDが飾られています。澤野工房のジョヴァンニ・ミラバッシ「アーキテクチュア」もあります(CDショップで視聴したら、エンリコ・ピエラヌンツィみたいだったので趣味に合わず、購入しませんでした)。カウンターにもバイブ奏者 ステフォン・ハリスの「ブラック・アクション・フィギュア」が・・・。そうです。ここは「新譜を聴かせる店」なのです。

ブラックアクションフィギュア スピーカーはJBLの名器4343B、アンプは真空管5550のトリプルプッシュを駆使したMFAという特殊な品で、そこに刺さるACケーブルはどこかで見た太いケーブル・・・そう、同じ広島市内のオーディオ店「ローゼンクランツ」製です。よく見れば電源タップもスピーカーのインシュレーターもローゼンクランツ製でした。カウンター越しのフロントラインもローゼンクランツ製のアクセサリー類で固められているようです。その効果もあるのか、以前はハムが乗っていることもありましたが、現在は皆無です。こうなると、ローゼンクランツというお店にも興味が湧いてきます。
 このラインアップからなるここの音は、一言でいえば「穏やかではあるが、退屈せず聴き入ってしまう」感じです。普段私が追い求める定位とか音の厚みとかそういったことを意識させないのです。流行の音ではありませんが、不特定多数に聴かせるお店はこうでないと、ね。

 夜の9時過ぎの訪問でしたが、お客さんは入れ替わり立ち代りでやってきます。おしゃべり禁止ではないので、場違いな酔っ払い連中もいないこともないのですが、多くの人は場の雰囲気を察しているようです。歓楽街の真中という場所柄もあっては致し方のないことなのでしょう。
 今回たまたま、私の側に中年の男二人女性三人の団体が席を取りました。皆さん来店も始めてで、ジャズに関してはまったくの素人のご様子。しばし小声での談笑の後、一人の男性がご主人に「ジャズを聴いてみたいが曲名がわからないし、どのCDを買ったらよいかもわからない」と相談を始めました。思わず振り向いてしまいましたよ。東京で店主とそんなフレンドリーな会話ができる店を知らないからです。(女性と目が合うと、うるさいのでにらまれたと思われたらしく「もう少し小さい声で」と同僚に言っています。すみません。全然悪気はなかったんです。)アゲイン

 ご主人はレコード棚とCD棚から数枚のアルバムを取り出し、男性のテーブルに置きました。一目でわかるそのジャケット。ソニー・クラークの「クール・ストラッテン」、マイルス・デイビスの「カインド・オブ・ブルー」といった歴史的名盤とエディ・ヒギンズのビーナス盤「アゲイン」です。「アゲイン」を紹介するあたり、ご主人の趣味のよさがわかります。皆さん熱心にメモを取られています。
 そうこうしているうちに、JBLからは店名と同じ「サテン・ドール」が流れ出しました。どうやら男性に紹介したうちの一枚のようです。ピアノトリオですが、ゆったりとしたやさしい音色が私には誰かわかりません。悟られぬよう(我ながらそんな見栄を張らなきゃいいのに)机上を盗み見ると、どうやらタイトルはわかりませんが、マッコイ・ターナーのインパルス盤です。これはCD屋で探さなきゃ・・・。

バラードとブルースの夜 結局、あの夜流れたのは、マッコイ・ターナーの「バラードとブルースの夜」からの一曲でした。インパルスというレーベルはチコ・ハミルトンの一連のアルバムで印象が悪く、コルトレーンも聴かないために、マッコイ・ターナーという存在も知らずにいました。サテン・ドールに行ってよかった、よかった。

 今回は2時間半近く居座り、コーヒー2杯で1,000円ですよ。どう思います? 別に夜だからお酒でないと、ということもありません。私の家が近所だったら、ここで何か飲みながら、ソフトを聴かせてもらい、それから購入しますが。
 あと、たまにライブの開催もあります。私自身はなかなか時間を合わせられませんが、ここでかぶり付で(マイクを通さない)生演奏に触れたら、自分の耳が一段階肥えるような気がします。5月にも実は中島教秀氏(b)のライブがあるんですよね。

 「サテン・ドール」の住所は広島市中区堀川町1-16 小川ビルの3階です(Tel. 082-241-0693)。地元民なら皆知っているジャンボビルの前ですので、わからなければこのビルを目指せばよいと思います。


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